駒込プリズン日記A

(仕切り直しの食道がん治療の記録)

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妄想録

何もすることがない、点滴に縛られて何も出来ない抗がん剤治療中に、小人が閑居して妄
想したことをまとめてみた。
医学は科学なのか?

駒込病院に併設されている医療情報・相談室の蔵書の中で見つけた米山公啓(よねやまき
みひろ)著「医学は科学ではない」によると、実際の医療現場ではEBMにもとづかない
治療がむしろ普通に行われているという。
日本では、長年の経験や慣例で行われる治療のほうが50%強だそうだ。

ここでの「科学」の定義は『実験を再現し、検証することができる』だ。
再現性が条件であれば、テーラーメイドの医療でない限り厳密には再現できないだろうし、
同一の患者ではそもそも再現は不可能であるはずだから、この定義では医学は科学であり
えないのは当然ではないかと思う。
私が科学的ではないと思うのは、医者の言うことがデータに基づくものとは思えないこと
や、データそのものもバイアスが多く、統計的にも信頼できるのか疑わしいという点であ
る。それに医師の専門化が進み、療法の比較検証が公正にできないことや、集学的な治療
をコーディネートする仕組みやその専門家がいるのであろうかという疑問である。

データベース

米山氏によると、日本の医学研究の分野では、国際的に通用する統計データが作られてこ
なかったとある。
また、医師にとって、臨床データを取る経済的メリットがないことや、患者にとっても治
験に参加する動機付け乏しいことが原因として挙げられている。
さらに文芸春秋2008年八月号の立花隆氏のレポートを読むと、相手が生き物だと、個
体差が大きすぎて数値化して分析しても、あまり意味がないという考え方が、医師の間で
は支配的だという。
それに対し、立花氏の対談相手でありニュートリノの質量を発見しノーベル賞に最も近い
物理学者といわれた、戸塚洋二東京大学特別栄誉教授は、個体差がありすぎるから、各個
体に対してデータや数値を細かく出して分析すべきであり、個体差を見るためには数値化
からはじめるべきと述べておられる。
(癌の末期状態であった戸塚氏は、この記事が出た直後の7月10日に亡くなった。)
要するに、少なくとも日本の医療界には、がんのデータベースがないということである。
このことは食道がんが見つかって4医療機関を巡った私の経験からも実感として感じたこ
とである。診てくれた医師の経験と信念(?)に基づく判断が語られるだけで、他の療法
と比較検討したいと思っても、無理であり、無駄であると観念せざるを得なかった。

名医の存在

外科の分野で「名医」とは手技の優れた職人の称号でしかないと思うが、下手な職人や、
未熟な研修中の医師の練習台にされても、運命として受け入れざるを得ない状況は、我が
身のことでなければさもありなんと思えても、当事者となれば冗談じゃないということに
なる。こんなところにも医学は科学とは言えない現実があると痛切に感じた。

一方で「医学は不変的なものではなく、変化し続けるもの」であることは理解できる。
重粒子線治療においても、『重粒子の効果にどのような要因が影響しているかはまだ分か
っておらず、治療前の組織や血液の解析により、効果予測が可能かを研究している段階で
結果が出るのはまだ先である』と、重粒子医科学センター病院で主治医の安田先生も、私
へのメールで明かされている。

スパシーボ!プラシーボ

同期生でもある鹿児島大学医学部教授丸山さんのメール(一部省略)によると『古今東西、
一番幅広く効く薬は「プラシーボ(偽薬)」です。時には二重盲検試験をすると実薬に勝
ることがあります。最近このプラシーボ効果の本態が判りつつあり、脳での中枢も同定さ
れました。信ずること、希望を持つことの科学性が少し判りかけてきた、ということです。
今は、人類だけがもつ「希望」は、生存に有利だった、と進化論的立場からの解釈が出つ
つあります。従ってどんな難病の患者さんにも、希望と闘病心を持ってもらうことが大事
だと私は思っております。昔、霧島分院(丸尾という牧園地区にあります)に勤務したこ
とがありますが、同じ年齢、同じ姓、同じ部位の同じ程度の脳血管障害でも、希望を持っ
てリハビリに取り組む患者さんと、絶望した患者さんとでは1ヶ月もすると圧倒的な差が出
てきます。
今の医学の欠点は、癌を告知しっぱなしで、患者に「希望格差」を生み出す傾向があるこ
とだと私は思います。
転移が一杯あり、それでも希望して重粒子線治療を受けた某大学の外科の教授の例を知っ
ていますが、粒子線を当てた原発巣は完全に死んでいたそうです。』
とありました。
丸山さんは、人類が生まれてから長い間に獲得してきた適者生存のための仕組を大事にす
る、もしくは活用する医療を目指しているのだと理解しているが、西洋医学は、暗黙知を
科学ではないと言って認めようとしない傾向が強いとしている。
彼は、血液学の専門家という表の顔の一方で、漢方の医療を形式知化する活動を精力的に
行っている稀有な医者である。

病院は医者のためにある。

私も、病気を治すには希望と闘病心を持つことが大事だと思うが、今の病院の環境、特に
大部屋の環境は、とても希望と闘病心を持てるような環境ではない。
むしろ絶望と不安をあおる仕掛けの中に患者を投げ入れているとしか思えない。
この病院の環境が、病気の治療のためにプラスに作用しているとは、どうひっくり返って
も思えない。医者や医療従事者が管理しやすいだけで、患者の治癒を考えていないことは
明白である。ベッド以外に寛げる場所もなく、重症者の苦痛の声や、時には隣のベッドの
患者の臨終に直面しても、希望と闘病心を持つことができるなどと医療者は考えているの
だろうか?
そんなことは考えていないだろうが、現実は人間の持つ自然治癒力や免疫力を殺ぐ環境に
閉じ込めていると、私は実感している。
今の、健康保険での医療の限界だと承知はしているが、こんな現状が良いはずがない。
このような環境で治療をすれば、一番治癒効果が高く効率も良いと証明されているのであ
れば納得もするが、病院とは何であるのか、根源的な疑問を持つのは私だけではないはず
だ。

インフォームドコンセントとムンテラ

ムンテラ(Mundtherapie)とは、患者とのトラブルを避けるために、治療方針を説明するこ
とで、インフォームドコンセントという言葉が使われる前は、医者の間で医療側の防御対
策としていわれた言葉だそうだ。
インフォームドコンセントというのは患者サイドに立った考え方のはずだが、このムンテ
ラという言葉を知ると、この方がよほど正直な言葉だと思う。
入院してわずらわしく思うのは、検査のたびに承諾書にサインを求められることだ。承諾
書の前文にある説明書には、検査の危険性が書かれており、それを承知で検査を受けると
いう意思表明を強制する仕掛けだ。
訴訟リスクに備えたものだが、まさにムンテラそのものである。
検査が必要であると言いながら、検査を受けるのは貴方の自由意志ですよと言われても、
まやかしとしか受け取れないほうがノーマルだと私は思う。
「患者様」という言葉とともに、このインフォームドコンセントと言う言葉も素直には受
け取れないのは私一人であろうか?

モンスターペーシェント

病院や医者への不満・不信を書きたてていると、食道がん患者の大先輩である中間君から
「もっとかわいい患者になりなさい。医者や看護婦さんに嫌われるとエライ目にあうぞ、
お前はモンスターペーシェント体質だ」と忠告を受けた。
理不尽なことを言うつもりはないが、理不尽な扱いを全く意に介していない今の医療は、
モンスターペーシェントが集まって反乱を起こさないと何も改善されそうにないと思う。
生殺与奪の権限を握っている医者に、無手勝流で挑んでも無駄だとは思うが、入院してみ
るとピンポイントの医療技術の進歩には熱心だが、人間の自然治癒力には何の効能も認め
ていないし、むしろそれを妨げていると叫びたくなる。

第1回抗がん剤治療の後 
抗がん剤治療を受けながら、この治療と並行して何か有効な治療はないものかと考えた。
点滴のチューブに1日つながれているのだから大したことはできないとは分かっているが
効果があまり期待できない治療をやっているだけで日時がたっていくことに不安と苛立ち
を禁じえなかった。
インターネットで改めて現時点で選択できそうな治療法を探してみた。
それをもとに駒込病院の出江先生と重粒子医科学センター病院の安田先生にお伺いのメー
ルを出した。
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出江 洋介 先生
15日に一時退院した吉田 耕治です。
入院中、何かとお世話になり大変ありがとうございました。
FAP療法中さしたる副作用もなく有り難いことだと感謝申し上げます。

ご多用中また、激務の折恐縮に存じますが、今後の治療方針についてご
教示いただけませんでしょうか?

今後取り得る治療として
@全摘手術が最大の選択肢であることは承知しています。

インターネットや友人の情報で興味を持っているのは下記の療法ですが
出江先生のご見解をご教示くださいますようお願い申し上げます。
APDT
 東京医科歯科大学で実施されていると聞きましたが適用は可能でしょ
 うか?
Bワクチン療法NY-ESO-1
 大阪大学医学部で臨床研究中だそうですが、私の食道がんがNY-ESO-1
 遺伝子または蛋白を持っていれば適応可能とのことです。
 このチェックを駒込病院で行うことは可能でしょうか?
 情報源:大阪大学大学院・医学系研究科
 消化器外科 土岐 祐一郎先生、和田 尚先生
 mail: hwada@surg2.med.osaka-u.ac.jp  Tel:06-6879-3251
 *現時点では、阪大へ問い合わせは行っておりません。
C抗がん剤治療について
 FAP療法の評価結果次第で第2クールを行う場合、これも阪大の資料
 ですがFAP+パクリタキセルという方法は可能でしょうか?

以上、素人の俄仕込みの知識でご迷惑とは存じますが、私の性分として色々
調べないと気が済まないものですから、その節は回答する時間はないとご開示
くださいますようお願い申し上げます。
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(出江先生からの返信)
お返事が遅くなって申し訳ありません。
ホームページ興味深く読ませて頂きました。
多くの方々の関わりがあってここまでたどり着かれた様子が、実に冷静に綿密に書か
れていて敬服しました。

治療法に関しては、吉田さんも書かれているように、やはり手術が最大の選択肢で、
それ以外の物については、現時点では、比較してどちらが良いかなと迷う段階の治療
ではないと思います。吉田さんの病気を治すということを考えたとき、ほとんど迷わ
ず手術の方が確率が「ずっと」良いといえると思います。
”懲役2年”というのは、ある意味うまく言ったものだとは思いますが、私の外来に
来ている患者さんをみるとそれほどではないと思いますよ。

なにか疑問点がありましたら、いつでもご連絡ください。

都立駒込病院 食道外科
出江(いずみ) 洋介
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(出江先生への御礼)

出江 洋介 先生
心のこもったご回答を戴き感激しました。ありがとうございます。
また、ホームページまでご覧頂き、恐縮いたしました。

理化学研究所の永井先生から廣川先生の著書を紹介して頂き、その中
で2006年の資料で日本人の男性の健康年齢は、71歳ということを知
りました。私にとっては後6年ほどです。
これくらいの年月なら、手術をしないでがんと共存して元気に生きられ
るのではなどと、手術への踏ん切りが中々できず逡巡していましたが、
メールを拝見し、出江先生のご判断に身をゆだねたいと思います。
宜しくお願い申し上げます。

23日には同窓生が『出征兵士を送る会』とか『禿げ増す会』など勝手
に銘打った会合を開いてくれます。
多くの友人がいて、私の弱気の虫を封じてくれるので戦うしかないとい
う状況です。今後とも宜しくお願い申し上げます。
                     草々
http://www.yoshidak.com/
              吉田 耕治
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(重粒子医科学センター病院の安田先生宛のメール)

ご無沙汰しております。
現在抗がん剤治療(FAP療法)が終わり、経過観察中です。
東京医科歯科大学でもPET/CTを受けましたが明らかな集積は認められないという
結果でした。生検の結果ではやはりがん細胞が認められるそうですが、まだ、重粒子
はじわじわ効いているような感じです。
抗がん剤投与中はだるかった程度で、現在は体調は変わりなく食欲も普通です。
 
私は、今でも主治医は安田先生と思っていますが、FAP療法でガンが縮小した場合、
PDTや免疫療法などは治療方法として対象になるような療法と考えられるのでしょうか?
また、その後出江先生とお話になられたことがあれば、安田先生のご見解をお教えいた
だければ幸いです。
 
2月には手術で全摘する予定で、覚悟も決まっていますが、安田先生から見てこれが一番
いい方法なのか、先生のお考えをお聞きしたいと思った次第です。
 
ホームページに重粒子治療の顛末を載せましたが内容的に不適切なものなどありましたら
削除いたしますのでお知らせください。
また、私の場合、重粒子線の感受性が低かった原因など差し支えない程度で結構ですので
お教えいただければ幸いです。
あつかましさついでに、駒込病院に持って行ったCDと同じものをいただけないでしょうか?
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(安田先生からのメール)

吉田 耕治 様
ご連絡有難うございました。

進達度から潜在的なリンパ節転移のリスクもありますので最も確実に治癒を望める治療として
やはり外科手術が第一選択となると考えます。

II期、III期の食道癌に対する化学放射線療法の成績として、東北大は国立がんセンター等より
10-20%よい5年生存率を報告していますが、その差は救済手術の施行率の差のようです。
手術を上回る救済治療はなかなかないのが現状です。
免疫療法は将来的には非常に魅力的な治療だと思いますが、現時点ではまだ確立されていません。
なお、重粒子の効果にどのような要因が影響しているかはまだわかりません。
治療前の組織や血液の解析により効果予測が可能かを調べる研究が始まっていますが結果が出る
のはまだ先になります。
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二人の先生の見解では、やはり手術に優るものはないことを知り、選択肢の少なさに改めてがっ
かりした。
仕方がないと思い直し、同期の連中にメールを発信した。

抗がん剤治療が終わり、1月29日まで仮退院することになりました。
恐れていた副作用は、無気力と倦怠感以外はほとんど出ず楽でした。
ただ12日間点滴につながれっぱなしで、6日間は水も飲めない完全
絶食で1日の長さが最大の敵でした。
もうすぐ中村No1殿と同じ頭になるといわれましたが、今のところは
フサフサです。
昨晩は家に帰って、早速焼酎を舐めました。ホッとしました。
皆様からの励ましメールありがとうございました。

HPリニューアルしました。(手抜きですが・・・)


 

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